ライブラリー・スキーマとソフトウェア定義の視点から見た「場」としての大学図書館機能の再定義
― 資料提供スキーマと学習支援スキーマの分離と接続 ―
1. はじめに
私は、 小論小野亘(2023) 大学図書館の概念スキーマ(ライブラリー・スキーマ)の 設計 において、 文部科学省で提示されたライブラリー・スキーマの概念について若干の検討をしてみましたが、 そこでは、ライブラリー・スキーマを、大学図書館を一つのデータベースとした場合の概念スキーマと考え、コンテンツの生成、アーカイブ、組織化、アクセスを中心に、いわば 資料提供スキーマ として検討しました。
一方、ライブラリー・スキーマを提起した「オープンサイエンス時代における大学図書館の在り方について(審議のまとめ)令和5年1月25日科学技術・学術審議会 」において “「場」としての大学図書館の効果的な活用について」” が提起されていますが、上記の小論では、 “大学の研究・教育を支援するための機能として抽象化し、再設計する必要があるだろう。” とするのみに留まっています。
今回は、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が提唱するSoftware Defined Society(SDS)の考え方を援用し、大学図書館における「資料提供」と「学習支援」という二つの機能群を、異なるレイヤーのスキーマとして整理し直してみます。
その上で、スキーマを前提としながら、実際の機能は広義のソフトウェア(制度・実装・運用・規則等)によって柔軟に書き換えられるという構造を考えてみたいと思います。
2. Software Defined Society における「制御」と再定義
IPAが提示するSDS(Software Defined Society)の基本的な発想は、価値や機能を物理的なハードウェアに固定せず、ソフトウェアによって定義・制御・再定義可能なものとして捉える点にあります。本小論では、ソフトウェアを、狭義のプログラム・コードによるものに限らず、制度、運用ルール、組織的判断、規則、さらには社会的合意形成の枠組みまでを含む広義の概念として捉えることとします。
SDSの視点に立てば、同一の物理資源や空間であっても、
- どのような役割を与えるか
- 何のために用いるか
- 誰が、どのようにアクセスするか
といった「意味付け」は、ソフトウェア的制御によって書き換えることが可能と捉えます。 重要なのは、制御対象がモノそのものではなく「役割」や「機能」である点であり、また、その制御が社会的・制度的な層を含む点です。
3. ライブラリー・スキーマという概念枠組み
3.1 概念スキーマとしてのライブラリー・スキーマ
私は、ライブラリー・スキーマを、大学図書館を一つの情報システム、あるいは一つのデータベースとして捉えた際の概念スキーマに相当すると捉えました。概念スキーマとは、個別のデータベース設計、システム実装や物理配置を離れたメタレベルのスキーマとして、
- どのような対象(資源・行為・関係)を扱うか
- それらがどのような関係にあるか
を論理的に規定する枠組みです。
3.2 ビューと多義性
ライブラリー・スキーマでは、利用者や文脈に応じたビューの存在が前提とされています。 ビューとは、
ITの分野ではデータなどの「見え方」「表示の仕方」の意味で用いられることが多い。
のアナロジーと考えられます。
学生、教員、研究者、あるいは同じ学生であっても初年次か大学院生かなどによって、同一の図書館資源は異なる意味を持っています。 この「見え方の切り替え」は、SDSにおける制御・再定義と同型であり、スキーマに対するソフトウェア的操作として考えることができます。
4. 資料提供ライブラリー・スキーマ
4.1 中核スキーマとしての位置づけ
大学設置基準では、大学図書館を以下のとおり規定しています。
(図書等の資料及び図書館)
第三十八条 大学は、学部の種類、規模等に応じ、図書、学術雑誌、視聴覚資料その他の教育研究上必要な資料を、図書館を中心に系統的に備えるものとする。
2 図書館は、前項の資料の収集、整理及び提供を行うほか、情報の処理及び提供のシステムを整備して学術情報の提供に努めるとともに、前項の資料の提供に関し、他の大学の図書館等との協力に努めるものとする。
3 図書館には、その機能を十分に発揮させるために必要な専門的職員その他の専任の職員を置くものとする。
4 図書館には、大学の教育研究を促進できるような適当な規模の閲覧室、レフアレンス・ルーム、整理室、書庫等を備えるものとする。
5 前項の閲覧室には、学生の学習及び教員の教育研究のために十分な数の座席を備えるものとする。
資料提供は、大学図書館の伝統的かつ制度的に強く要請されてきた領域です。 教育研究上必要な資料を、印刷物・電子資料・研究データ等を含めて集合的に管理し、正規性と利用条件を担保した上で提供するという機能は、ライブラリー・スキーマの中核を形成しています。
上記第38条第4と第5項が、その資料提供によって、教育っ研究を促進することを謡っているものです。
4.2 可塑的中核としての再定義
しかし、資料提供スキーマ自体も決して静的な存在ではありません。学生や教員の学習・研究活動というビューを通じて、
- どの資料(群)が必要とされるか
- 新たにどのような資料(群)が求められているか
- 提供単位や整理方法をどう見直すか
といった再定義が常に要請されます。この再定義は、SDS的に言えば外部入力に応じた制御ポリシーの更新であり、資料提供スキーマの論理的同一性を保ちながら行うことができます。
5. 学習支援のためのスキーマ
5.1 別レイヤーとしての定義
学習支援は、さまざまな学習(自学自習、協働学習、情報探索支援、相談等)を対象とし、これらは、必ずしも大学図書館だけが担う機能ではありません。
文科省の審議のまとめでも、以下の通りとされています。
その際、学修環境整備に関する既存業務のうち、主に大学図書館が担ってきた部分については、これまでの活動の評価を踏まえ、大学図書館が引き続き行うかどうか改めて整理する等、大学全体で検討する。
もちろん大学図書館にとっても引き続き重要な機能ですが、学習支援スキーマ という資料提供スキーマとは別レイヤーのスキーマとして定義し、大学として何が必要で、どこを大学図書館が担うか、を検討することが必要でしょう。
5.2 動的なスキーマ
学習支援スキーマ は、教育方法や学習環境の変化に強く影響を受けるので、 どのような空間で実施するか、どの部門が担うか、対面かオンラインかといった点は、すべてソフトウェア(制度・運用・実装)によって制御されることが重要です。
6. スキーマ間インターフェースと双方向性
資料提供スキーマと学習支援スキーマは、インターフェースを介して密接に接続されることが必要です。
- 学習・研究活動は、資料提供スキーマに対して新たな要求や文脈を入力する。
- 資料提供スキーマは、その入力に応じて収集方針や提供形態を再定義する。
- 同時に、資料提供スキーマが定義する制約や正規性は、学習支援スキーマの振る舞いを規定する。
この関係は主従ではなく、役割分担された相互制御関係と捉えられます。
7. スキーマとソフトウェアの関係の整理
以上を踏まえると、大学図書館機能は次のように整理できます。
- スキーマ
- 図書館機能の論理的枠組みを定義する
- 何が図書館機能かを規定する安定層
- ソフトウェア(広義)
- スキーマを前提として、実際の機能・役割・振る舞いを制御・再定義する
- プログラム、制度、運用、規則、組織的判断を含む可変層
この構造により、大学図書館は、スキーマを維持したまま、要請の変化に柔軟に応答することが可能となります。
8. 学習支援の共通言語化
8.1 学習支援についての先行研究
ここで、冒頭に掲げた私の先行小論の続きとして、目に見えるスキーマを試作してみようと考え、 大学における学生への学習支援について、改めて調べてみました。
ところが、学習支援そのものの定義や範囲は必ずしも統一されていないことが分かりました。
2000年代以降の高等教育のユニバーサル化および学生の多様化を背景に、重要な研究テーマとして取り上げられてきてはいますが、いわゆる厚生補導などを根っこに持つ学生支援全体の一部として位置づけら、体系的な整理はなされていないと感じました。
文献検索の範囲では、学習支援の全体像を整理した研究として、林ほか(2023)は、全国調査に基づき、大学生の学習支援を「目的」「担い手」「方法」という三つの観点から整理しています。同研究では、学習支援が正課・正課外を横断する取り組みであり、とりわけ自律的学習の涵養が中核的な目的であることが示されています。一方、木原(2023)は、日本の大学における学習支援の現状を文献調査から整理し、学習支援の内容が大学ごとに多様であること、また共通認識の不足が学習支援担当者の専門性形成を困難にしていることを指摘しています。これらの研究では、学習支援を構造的に整理する必要性を示唆しています。
学習形態に着目した研究としては、自学自習・自律学習支援、グループ学習支援、課題学習(PBL)支援に関する実践研究があります。梅本・佐々木(2024)は、ピア・サポートと自律学習支援を組み合わせた実践を通して、自学自習は学生に委ねるのではなく、学習目標の明確化や振り返りを含む「設計された支援」が不可欠であることを示しています。また、三井(2025)および石川(2024)は、大学におけるグループ学習を対象に、心理的抵抗感の軽減や学習環境設計、教員や支援者の関与の在り方が学習成果に影響することを明らかにしています。
2013年の学修環境充実のための学術情報基盤の整備について(審議のまとめ)以降、大学図書館のラーニングコモンズを中心とした実践報告が多数ありますが、学習支援を大学の教育基盤として統合的に捉えた事例として、千葉大学アカデミック・リンク・センターの取り組みがあります。同センターでは、「考える学生の育成」を理念に掲げ、学習支援を「空間」「コンテンツ」「人的サポート」の三要素から構成しています。
また、中井俊樹, 清水栄子, 竹内比呂也, 我妻鉄也.(2023)“新たな時代における大学の学習支援を考える : 学習支援の指針、現状、望ましい在り方(千葉大学alpsプログラム第8回シンポジウム),” Alpsブックレットシリーズ, 8 (千葉大学アカデミック・リンク・センター(教育関係共同利用拠点 新たな時代の大学教育を創造する「教育・学修支援専門職」養成拠点)) では、学習支援とその背景などについても整理されています。
- 林 透・長澤多代・宝来華代子・大関智史・我妻鉄也(2023)「大学生のための学習支援の目的・担い手・方法に関する総合的研究」『大学教育学会誌』45巻2号, pp.157–162
- 木原 宏子(2023)「日本の大学における学習支援の現状と課題」『桜美林大学研究紀要 総合人間科学研究』第3号, pp.309–318
- 梅本佳子・佐々木技好(2024)「ピア・サポート×自律学習支援クラスに見る学生の学びと成長」『北陸大学紀要』第56号
- 三井 規裕(2025)「大学教育における少人数グループ学習の現状と実践の改善に関する研究」
- 石川 勝彦(2024)「グループワークを中心とした学習環境が学びに与える影響」
8.2. 学習支援を「共通言語」にするための前提整理
これらのことから、日本の大学における学習支援は、
- 定義が大学・部局ごとに異なる
- 実践は多様だが、言語化が弱い
- 「施設」「制度」「支援行為」が混同されやすい
という課題があるいように思います。
8.3. 学習支援の構造化
そこで、試みに、学習支援を5つのレイヤーに分解してみました。
レイヤー1:理念(Why)
学習支援の存在理由
代表語彙:
- 自律的学習者の育成
- 考える学生
レイヤー2:学習過程(When / Where)
支援が介入する「学びの局面」
- 授業前(準備・探索)
- 授業中(協働・理解)
- 授業後(深化・発信)
- 正課外
レイヤー3:学習形態(How students learn)
- 自学自習(自律学習)
- グループ学習(協働学習)
- 課題学習(PBL/探究)
レイヤー4:支援機能(What support does)
- 方向づけ(目標・課題明確化)
- 環境整備(物理・デジタル)
- プロセス支援(進め方)
- 認知支援(理解・メタ認知)
- モチベーション支援
- 成果表現/発表/発信支援
レイヤー5:支援リソース(With what / By whom)
- 空間(学習空間、スペース)
- コンテンツ(資料、教材、デジタル)
- 人的支援(教員、職員、SA、院生)
学習支援スキーマ(共通フレーム)
上記を「スキーマ」として1枚で表すと、以下のようになります。
[理念]
↓
[学習過程]
↓
[学習形態]
↓
[支援機能]
↓
[支援リソース]
9. 場としての大学図書館
「オープンサイエンス時代における大学図書館の在り方について (審議のまとめ)」(令和5年1月25日 科学技術・学術審議会 情報委員会) では、以下のとおりまとめらています。
(2) 上記支援機能やサービスを実現するための、情報科学技術及び「場」としての大学 図書館の効果的な活用について
【ポイント】
➣ 「デジタル・ライブラリー」の実現には、大学図書館機能を物理的な「場」に制約 されない形で再定義することが求められる。そのためには、「ライブラリー・スキー マ」を明確にした上で、利用者が何を求めているかを整理・再検討し、それを反映し てデザインされた最適な環境を構築する必要がある。
➣ その際、学修環境整備に関する既存業務のうち、主に大学図書館が担ってきた部分については、これまでの活動の評価を踏まえ、大学図書館が引き続き行うかどうか改めて整理する等、大学全体で検討する。
デジタルライブラリー検討で言う「「場」としての大学 図書館」は、 若干の前史はあるものの、公式には、 学修環境充実のための学術情報基盤の整備について(審議まとめ)(平成25年8月科学技術・学術審議会 学術分科会 学術情報委員会)) で提唱された「ラーニングコモンズの整備 」を前提として、必ずしも「大学図書館機能を物理的な「場」に制約されない形で再定義」を行うものと考えられます。
物理的な「場」が不要になったわけでも、役割が大きく変わったわけではないが、コロナ禍を経て、デジタル、特にAIの進展が著しい現在において、再定義は必要だが、再定義を行うためには、「基本的な論理構造としての「ライブラリー・スキーマ」を明確にする必要がある。 」ということでしょう。
「2030デジタル・ライブラリー」推進に関する検討会」 「オープンサイエンス時代にふさわしい「デジタル・ライブラリー」の実現に向けて 〜 2030 年に向けた大学図書館のロードマップ 〜 」 では、以下のとおりとされています。
・【2】場:「ライブラリー・スキーマ」に基づく機能の具体化 大学図書館の論理構造としての「ライブラリー・スキーマ」の明確化とそれに基 づく大学図書館機能を具体化し実装すること
検討会では、Aiへの対応を含め、いろいろな議論が 行われているようですが(現時点では資料は公開されていますが、議事録が非公開なので、外部からは状況が分かりませんが)、 「2030デジタル・ライブラリー」推進に向けたロードマップ を見ると、「場」と「ライブラリー・スキーマ」がなぜ結びつけられているかが分かりにくいのが気になります。
ラーニングコモンズなどの場を活用するにせよ、物理的な場に制約されない「場」を検討するにせよ、大学図書館で生成AIがどう活用できるのかを検討するにせよ、あるいはもっと根本的に学術情報流通をどう再設計するかにせよ、論理構造としての「ライブラリー・スキーマ」の明確化が明確でない(トートロジーっぽいですが)ので、なにに基づいて、どこを目指すかがはっきりしないのが、迷走気味に見える原因なのでは、と思いますが、いかがでしょうか?
「各大学図書館自らの存在を規 定する基本的な論理構造とし ての「ライブラリー・スキー マ」」(ロードマップ)
なので、検討会で上から押しつけるような「ライブラリー・スキーマ」は作らないということなのかもしれませんが、「一大学一図書館に閉 じない」ことも(審議のまとめ)で謳っており、そのためには連携可能な共通スキーマは必要なのでは、と思ったりします。
9.2 「場」とは?
「場」は英語で、place /space / field ですが、以前のラーニングコモンズは具体的な「場」=place前提だったように思いますが、 空間としての「場」=space、もっと拡げて、作用が生じる「場」=field という意味合いで考えていく必要があるのではないか、と思っています。
fieldは、電磁場とか重力場とかの場ですが、”力・エネルギー・相互作用が媒介される” という「場」=field のイメージをうまく使えば、 AI時代の「場」としての大学図書館がうまく説明できるような気がしています。
10. おわりに
本小論は、大学図書館における資料提供と学習支援を、SDSとライブラリー・スキーマの観点から再整理してみました。 重要なのは、論理構造(スキーマ)と制御・運用(ソフトウェア)を分離して捉える視点です。
いろいろ盛り込んで、未整理な感じはありますが、 この視点が、今後の大学図書館政策、サービス設計において有効な分析枠組みとなることを期待しています。
Disclaimer
アイデア出しに、生成AIの助けを借りていますが、基本的に本文は自力で書いています。若干、生成AIからのコピペが残っている部分があります。
本小論で表明された意見は著者個人のもののみであることを証明します。これらは所属組織の公式見解を代表するものではありません。